お見送りの連絡には、二種類の伝え方があった。信頼している担当者には電話をかける。そうでない相手には、メールを送る。採用する側にいた頃、この使い分けを自分は何年も続けてきたし、周りも同じだった。メールには絶対に書かないことを、電話では話していた。
エージェントは、企業の内部事情に平等にアクセスできる存在だと思われている。実際はそうではない。企業側は、誰に何を話すかを選んでいる。意図的な駆け引きというより、もっと自然な選別です。長く付き合いのある担当者には、候補者の評価を率直に話せる。この人なら意図を汲んで、変に加工せず、しかし角が立たない形で候補者に伝えてくれる。その信頼があるから、言葉を選ばずに済む。
一方で、付き合いの浅いエージェントへの連絡は、メールになる。文面に残る言葉は慎重になる。率直な評価をそのまま文字にすれば、どこでどう独り歩きするか分からない。だから当たり障りのない範囲に収める。「総合的に判断して」「他の候補者との比較で」。嘘ではない。ただ、本音の輪郭は、そこにはもう残っていない。書いている本人が、一番それを分かっている。
企業側に悪意はない。信頼関係が浅い相手に多くを話さないのは、ビジネスとして当然の振る舞いでしかない。そしてエージェントも、受け取った言葉を候補者に渡すときにもう一段階柔らかくするから、届く頃には最初の言葉は別物になっている。
転職活動をしていると、担当エージェントの説明がなんだか薄い、と感じる瞬間があると思います。企業のことを聞いても、返ってくるのは求人票に書いてあるような話ばかり。それをエージェントの能力の問題だと考えてしまいがちだが、自分が見てきた範囲では、少し違う。そもそもエージェントの手元に届いている情報量が、最初から違うのだ。
この情報量の差は、単なる気心の知れ方の問題ではない。付き合いの長いエージェントには、企業側が無意識のうちに扱いに違いを設けていることがある。その担当者経由の候補者であれば、書類は形式的な確認だけで先に進めることもある一方、そうでない担当者経由の候補者の場合はより慎重に見る。
採用要件に関しても同じようなことが起きる。求人票に記載の内容が全てではなく、信頼している担当者にだけ個別に伝える要件もあった。書かれている情報と、実際に交わされている情報は、必ずしも同じではない。
同じ質問をしても、返ってくる答えの深さが違うのは、聞き方の差ではない。届いている本音の量の差だ。
だから「本音を聞き出す」という発想は、あまり機能しない。手元にないものは、どれだけ上手に聞かれても出せない。電話で話してもらえる側なのか、メールで済まされる側なのか。候補者から直接それを確かめる方法はほとんどない。ただ、企業の内部について具体的な質感のある話ができる担当者は、おそらく前者です。
まとめ
企業がエージェントに渡す本音の量は、関係の深さで決まっている。それは伝達手段にまで表れていて、信頼できる相手には電話で、そうでない相手にはメールで伝えられる。誰も嘘をついていない。それでも情報は、関係の浅さの分だけ薄まっていく。電話をかける側にいたからこそ、その構造が候補者からは決して見えないことを、今は知っているのだと思う。
この「関係の深さが情報の質を左右する」という構造は、コンサル特化型エージェントを比較したこちらの記事でも触れている。

